脳を理解するための基礎知識
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No.37 年齢とともに衰える認知行動能力

No.37 年齢とともに衰える認知行動能力

 脳の重要な機能である認知行動能力。目や耳などからの知覚情報をもとに、周囲の状況を把握し、的確に判断、反応する能力のことだが、この認知行動能力は加齢とともにどうしても衰える。とくにスポーツや自動車の運転への影響は大きく、昨今、問題となっている高齢ドライバーによる交通事故も、認知行動能力の低下が大きな原因の一つと考えられている。
 これに対し、サケやエビなどに含まれる色素成分アスタキサンチンが、加齢にともなう認知行動能力の低下に効果があることが報告されている。できればいつまでも若々しい脳で、ドライブやスポーツを楽しみたい。そんな私たちへの朗報となるか。

サケやエビに含まれる赤い天然色素成分

 アスタキサンチンはサケやエビ、カニ、オキアミなどに多く含まれる、赤色の天然色素成分。ニンジンに豊富なβ-カロテンや、トマトのリコピンと同じカロテノイドの一種だ。昨今、アスタキサンチンには、強い抗酸化作用があることが明らかになり、サプリメントや化粧品などの分野でも脚光を集めている。
 研究を行ったのは、順天堂大学大学院医学研究科の白澤卓二氏(加齢制御医学講座)、ヤマハ発動機ライフサイエンス研究所、アンチエイジングサイエンスの共同チーム。脳の老化には酸化ストレスの関与がいわれているが、強力な抗酸化物質であるアスタキサンチンが、どのような効果を示すか検証した。
 被験者は50歳以上69歳以下で、認知症などの脳機能障害はないが、加齢にともなう物忘れ傾向を自覚している健常な男性10名。被験者には1日12mgのアスタキサンチンを、12週間摂取してもらい、摂取前、摂取6週間後、摂取12週間後に2種類の検査を実施した。

反応時間が短縮し、正答率もアップ

 一つ目の検査は「CogHealth」と呼ばれ、パソコンのモニターに映し出されるトランプを見て、被験者にボタンを押してもらう検査。「単純反応」「選択反応」「作動記憶」「遅延再生」「注意分散」の5つの課題があり、その結果から脳の機能低下や改善の様子がわかる。各課題は次のような内容だ。

①「単純反応」……トランプが裏から表にひっくり返ったらボタンを押す。
②「選択反応」……裏から表にひっくり返ったトランプが、赤か黒かを判断してボタンを押す。
③「作動記憶」……ひっくり返ったトランプが、ひとつ前のトランプと同じかどうかを判断してボタンを押す。
④「遅延再生」……ひっくり返ったトランプが、遅延再生課題中に出てきたことのあるトランプかどうかを判断してボタンを押す。
⑤「注意分散」……5枚のトランプが上下に動き、一枚でも上下にある線に触れたらボタンを押す。

CogHealthの反応時間
CogHealthの記憶 タスクの正答率に関する多重比較結果

 検査の結果、アスタキサンチン摂取前に比べ、12週間摂取した後の方が、「単純反応」「選択反応」「作動記憶」「遅延再生」「注意分散」のすべての課題で、トランプを見てボタンを押すまでの反応時間が有意に短縮していた(図1)。また記憶力が必要とされる「作動記憶」と「遅延再生」の課題では、「作動記憶」で正答率の改善が認められた(図2)。

脳での認知処理レベルも向上

 二番目の検査は、P300という脳波を測定する検査で、被験者はヘッドホンから聞こえる「ブー(1000Hz)」と「ピー(2000Hz)」という2つの音を聞き分け、「ピー」の音が聞こえたらボタンを押す。このとき特徴的に現れる脳波であるP300の潜時(P300が現れるまでの時間)と、振幅の大きさを測定することで、それぞれ情報処理のスピード、および集中度がわかる。P300は一般に、年齢とともに潜時が長く、振幅が小さくなるといわれている。
 その結果、アスタキサンチン摂取12週間では、P300の潜時には大きな変化は見られなかったものの、振幅に増加傾向が認められた(図3)。この結果は、音を知覚してからボタンを押すスピードには変化はなかったが、中枢での認知処理レベルが向上していることを示唆している。

FzにおけるP300の振幅

高齢者の安全運転をサポートする可能性

 認知行動能力は、日常生活のさまざまな場面で必要とされるが、刻々と変化する周辺状況を捉え、的確に判断、行動することが求められる車の運転時には、とくに重要な能力だ。
 平成21年の警察白書によると、65歳以上の運転免許保有者は、およそ1,180万人(2008年時点)。移動手段として車に頼らざるを得ない高齢者が少なくない一方で、高齢ドライバーが引き起こす交通事故が社会問題となっている。65歳以上の運転免許保有者10万人あたりの死亡事故件数(原付以上の車両を運転中)は、16歳~24歳の若者に次いで多い。こうした背景の一つには、運転に必要な認知行動能力が、高齢者で低下していることが考えられる。今後、運転免許保有率の高い今の30歳代、40歳代がシニア世代にさしかかると、問題はさらに深刻化することが懸念される。
 だれしも歳をとるのは避けられない。今回の研究で、アスタキサンチンには、認知行動能力を向上させる可能性があることが示されたわけだが、加齢とともに衰えがちな脳の働きを、安全な食品成分で改善できるとしたらありがたい。それが高齢ドライバーの安全運転をサポートし、社会の安全に寄与するなら、なおさらだ。今後の研究の進展に期待したい。