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No.30 進む頭痛治療

No.30 進む頭痛治療

 頭痛に悩んでいる人は多い。その激しい痛みで、仕事や家事に支障をきたすことも少なくないが、一方で、“頭痛は治療すべき疾患”という認識はまだ浅く、市販薬を飲みすぎて、かえって症状を悪化させる「薬物乱用頭痛」も問題視されている。
 しかし、慢性頭痛の治療法は、ここ10年足らずの間にかなり進化している。契機の一つとなったのは、特効薬「トリプタン」の登場だが、さらに今年からは、このトリプタンを、自宅で自己注射することができるようになる。「治療法の開発が進み、慢性頭痛の患者さんに、幅広く対応できるようになってきた」という、獨協医科大学・神経内科教授の平田幸一氏(頭痛外来)に、最近の頭痛治療の動向などを聞いた。

今年からトリプタンの自己注射が可能に

 慢性頭痛については、すでにブレインヘルス・ニュースNo.8(2006年4月25日発行)でも取り上げたが、慢性頭痛とは、脳の検査で器質的な異常が見あたらないにも関わらず、何度もくり返し起こる頭痛を指す。なかでも問題とされるのは、ズキンズキンという拍動性の痛みが、こめかみの周辺に起こる「片頭痛」。痛みが激しく、嘔吐や吐き気を伴うこともあるため、日常生活もままならず、寝込んでしまうなど、QOL(生活の質)が著しく損なわれることが多いからだ。片頭痛は特に女性に多く見られ、15歳以上の有病率は、約8%と推定されている(図1)。

日本人の推定頭痛有病率(15歳以上)
トリプタン製剤の半減期

 片頭痛の治療は、「トリプタン」を中心とする薬物療法が基本となる。トリプタンは脳の中で、頭痛を引き起こしている部分に直接働き、痛みを起こりにくくする効果がある。痛みが本格化してから服用しても効き目はあるが、問題点も指摘されていた。重症の片頭痛で、強い吐き気がある場合、嘔吐などで、トリプタンの内服薬や点鼻薬が使えないことがあったからだ。そのような場合、これまでは医療機関で注射を受けるほかなかったが、今年からはこのトリプタンを、自宅で自己注射できるようになる。「内服薬や点鼻薬に比べて、注射薬は即効性があり、数分で痛みが治まる。ただ、片頭痛の痛みは激烈で、救急車を呼ぶ人もいるほど。痛くなってから来院するのは、患者さんにとって大きな負担だった。トリプタンの自己注射は、そういう人にとって福音」と平田氏。
 トリプタンの自己注射が認められたのは、昨年末。重い片頭痛のほか、ある一定の時期に集中して発作が起き、“人類が経験する最大の痛み”ともいわれる「群発頭痛」の人を対象に、現在、各医療機関で導入が進められている。

新しい内服薬も近く登場。将来的には遺伝子治療も

 内服薬でも、新しい動きがある。同じトリプタン製剤でも、従来のものと比べて、効果がより長持ちする「ナラトリプタン」が、近く承認される見込みだ。これまで最長とされていた「エレトリプタン」の半減期(体内で薬の量が半分になるまでの時間)が、約3時間だったのに対し、ナラトリプタンの半減期は約5時間(図2)。作用時間が長ければ、それだけ服用量を減らすことができる。
 頭痛の予防薬として、高い効果が期待されているのが、現在、治験が進行中の「トピラマート」だ。頭痛の予防薬は、トリプタンと異なり、発作そのものに作用するわけではない。一定期間、続けて服用することで、頭痛が起こる回数を減らし、起きた場合も軽く済むようにするのが目的だ。
 頭痛の発作をくり返すと、脳は刺激に対して過敏になり、さらに頭痛が起こりやすい状態をつくりだしてしまうが、これに対し予防薬は、オーバーヒート気味の脳を沈静化させる効果を持つ。あらかじめ予防薬で頭痛の頻度と程度を抑えておき、頭痛が起きたらトリプタンで対処する、というのが基本的な使い方だ。
 このほか、片頭痛は遺伝的要素が大きいと考えられることから、片頭痛の遺伝子研究も始まっている。臨床への応用はまだ先の話だが、頭痛の根治を目指した、遺伝子治療の可能性が、模索されているところだ。

ライフイベントに合わせたオーダーメードの薬物治療

 あまり知られていないが、片頭痛の多くは、女性では月経が始まる10代前半に発症し、60代後半ごろになると軽快する。はじめは、発作の回数も1、2カ月に一回程度で、痛みも比較的軽いが、妊娠、出産によるホルモン変化に、仕事や家事、子育てなどのストレスが重なる30代~50代をピークに、症状が悪化しやすい。根治療法の確立が待たれるが、それまでは薬物療法を中心に、頭痛をうまくコントロールしていくことが大切だ。
 「頭痛の治療薬はいろいろ出揃ってきたが、それぞれに長所と短所がある。例えば、妊娠を望む女性は、予防薬の服用は避けるべき。副作用として眠気の出るものもあるので、職業を考慮して薬を選ぶ必要もある。女性の一生には、社会的にも、身体的にも、さまざまなライフイベントがあり、片頭痛の症状もその影響を受けて変容していく。医師と相談しながら、その時々の状況に合った、オーダーメードの薬物治療を受けることが望ましい」(平田氏)。

月5回以上、市販薬を服用している人は、一度受診を

 市販の頭痛薬を常用している人は、特に注意が必要だ。市販薬には、イブプロフェンやナプロキセンなどの鎮痛薬が主に使われている。鎮痛薬は、痛みに対する効きはいいが、欠点もある。前述のトリプタンと異なり、鎮痛薬は痛みが伝わる回路のみを断ち切り、痛みを感じさせないようにするので、脳の中で頭痛を起こしている病的な状態は、そのまま放置される。これまでの研究で、片頭痛は脳梗塞のリスクを高めるという報告もあることから“痛みがなくなれば、それでいい”と安易に考えるのは危険だ。
 また、痛くなってから飲んでも効くトリプタンに対し、鎮痛薬は発作の初期に服用しないと効果が現れにくい。そのため「頭痛が起こるかもしれない」という強い不安から、服用回数が増し、かえって頭痛発作が慢性化する「薬物乱用頭痛」を招きやすい。
 このほか、市販の頭痛薬には鎮痛薬以外に、無水カフェインなど、痛みをすばやく抑える成分を配合したものが多いが、こういった成分も実は薬物の乱用につながりやすい。目安として、「市販の頭痛薬を月に5回以上飲んでいる人は、要注意」と平田氏。該当する人は、それ以上、服用量が増えないうちに、早めに専門医を受診したい。