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No.27 飲酒の習慣が、脳梗塞の発症後に好影響

No.27 飲酒の習慣が、脳梗塞の発症後に好影響

 もうすぐ師走。忘年会などで飲酒の機会が増えるシーズンだが、今回のブレインヘルスニュースでは、飲酒と脳卒中の関係を取り上げる。「百薬の長」といわれるお酒は、適量なら、脳卒中に対しても予防的に働く。最新の研究では、適量の飲酒習慣がある人は、脳卒中の発症リスクが低いだけでなく、万が一、脳卒中を起こした場合も、後遺症が軽くなる傾向のあることなどが、明らかになってきている。

飲酒量と脳卒中のリスクは“Jカーブ”の関係

 アルコール摂取が脳卒中の発症に及ぼす影響については、国内外でこれまでに多くの研究が行われている。図1、2は2003年にJAMA(Journal of American Medical Association)に発表されたデータで、アルコールと脳卒中の発症リスクに関する、メタアナリシスの結果が示されている。メタアナリシスとは、同じテーマで行われた複数の研究結果を統合し、統計的に分析するもので、信頼性が最も高いといわれる手法である。
 脳卒中は、脳の血管が破れる「脳出血」と、脳の血管が詰まって、血液が流れなくなる「脳梗塞」に分類されるが、図1の脳出血では、アルコールを全く摂らない人を1とした場合、1日のアルコール摂取量が12g未満の人は0.79、12g以上24g未満の人は0.98と、いずれも脳出血の発症リスクが低くなっている。アルコール12gは、日本酒に換算すると約0.5合(90cc)。ビールなら中びん半分強(270cc)に相当する。

アルコール摂取と脳出血
アルコール摂取と脳梗塞

 また図2では、適度のアルコール摂取は、脳出血と同様に、脳梗塞の発症も抑えることが示されている。脳梗塞の場合は、1日に摂取するアルコールが60g未満であれば、アルコールを摂らない人より発症率が低い。
 しかしその一方で、飲みすぎれば、逆に発症の可能性が高くなることも明らかだ。一般に飲酒量と脳卒中の関係は、“Jカーブ”を描くとされ、適量なら発症リスクは下がるが、それを越すと、飲酒量に相関して発症リスクは上がる。図1、2でも、アルコールを全く摂らない人と比べて、脳出血では1日24g以上60g未満で1.19、60g以上で2.18、脳梗塞では1日に60gを越えると1.69と、それぞれ危険倍率が高くなっている。

適度な飲酒は、脳卒中の発症後にも良い影響

 秋田県立脳血管研究センターの長田乾氏(神経内科学研究部部長)によると、最近行った研究で、適度な飲酒は、脳卒中の発症リスクを下げるだけでなく、脳梗塞の転帰、すなわち脳梗塞を発症した後の、症状の改善や後遺症の程度に、良い影響を与えることが分かったという。
 研究では、脳卒中データバンクに登録された、発症7日以内の脳梗塞患者3,674名を対象とし、「飲酒習慣」のほか、「年齢」や「高血圧、高脂血症、糖尿病などの危険因子」「脳卒中の既往歴の有無」「発症時の重症度」「治療開始までの時間」などが、脳梗塞の転帰にどのように関係しているかを解析した。なお、脳梗塞の転帰については、「退院時の機能障害の程度」と「入院時と退院時を比較したときの症状の改善度」、及び「入院日数」で評価している。
 その結果、対象となった患者のうち、脳梗塞の主な病型である「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の患者の転帰は、図3のようになった(脳梗塞の種類については、図中の解説を参照)。そして解析の結果、これらの脳梗塞の転帰には「年齢」や「発症時の重症度」、また「脳卒中の既往歴の有無」が強く関連していたほか、「飲酒習慣」は全ての脳梗塞のタイプに対して、転帰を良くする方向に働いていることが分かった。

適量なら血管の炎症を抑制。日本酒1~2合が目安

 この結果を受けて長田氏は、「適度な飲酒習慣が脳卒中を予防することは、これまでにも知られていたが、今回の研究により、脳梗塞が起こった後でも、プラスに働くことが示された。最近の研究で、適量のお酒には、血管の炎症を抑える作用があることが報告されている。この作用が脳卒中に対しても、好影響をもたらしていると考えられる」と話す。
 血管の炎症は、脳卒中の危険因子となる動脈硬化を引き起こす。また脳卒中の発症直後にも、脳の血管内では炎症が起こり、症状を悪化させるといわれている。こうした炎症に、お酒の抗炎症作用が役立っているのではないか、という解釈だ。ちなみにこれと関連して、動脈硬化の治療薬で、優れた抗炎症作用を持つ「スタチン」でも、ふだんからこれを服用していた人が脳卒中を起こした場合、症状が軽くすみやすいことが報告されている。

脳梗塞患者の転帰

 ただし、以上はあくまで“適量のお酒”の場合。多量の飲酒は炎症を促進し、脳出血、脳梗塞の増悪因子となるだけでなく、エネルギーの摂りすぎから、メタボの原因にもなる。個人差はあるが、“適量の目安”としては、「日本酒なら1合か、多くても2合以内」と長田氏は指導している。

脱水による脳梗塞にも要注意

 また飲酒量以外に、お酒を飲んだあとの脱水にも注意が必要だ。アルコールには利尿作用があるので、体が水分不足に陥りやすい。脱水状態になると、血液の粘度が増して血栓が出来やすくなり、脳梗塞を発症する危険性が高まるのだ。長田氏の話では、高血圧や高脂血症、糖尿病など、他の脳梗塞の危険因子を持っていない人でも、過度の飲酒による脱水症状だけで、脳梗塞を発症することもあるという。
 お酒はなるべく適量を守って飲む、これが大原則。でももし、うっかり飲みすぎてしまったら、忘れずに水分をしっかり摂ること。間違っても「のどが渇いた」と思いながら、ついそのまま寝入ってしまった……ということがないよう気を付けて、これからの忘年会シーズンを迎えよう。