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No.22 日本で生まれた“大人のぬり絵”ブーム

No.22 日本で生まれた“大人のぬり絵”ブーム

 脳の老化防止に一役買うと、大人向けのぬり絵が注目されている。7月にはぬり絵をテーマとした、初の国際シンポジウムも予定され、脳や心の健康法の一つとして認知されつつあるが、昭和30 年代ごろまで、ぬり絵は少女たちの定番のお遊びだった。
 今回のブレインヘルスニュースでは、いつもと少し趣向を変え、そんなぬり絵を愛し、日本で唯一ぬり絵専門の美術館を開いた、金子マサさんを取材した。金子さんは昨今の“大人のぬり絵”ブームをどう見ているか。自身で主宰する「大人のぬりえサロン」の話も聞いた。

古くて新しい日本のぬり絵

 東京都荒川区町屋には日本でただ一つ、ぬり絵を専門とする「ぬりえ美術館」がある。ここにはぬり絵作家として一時代を築いた蔦谷喜一氏(1914年~2005年)の作品を中心に、世界23カ国のぬり絵が所蔵されている。開館日は土、日と祝日で多くはないが、2002年8月のオープンから5年足らずで、約8,000人がここを訪れた。
 日本におけるぬり絵の発祥については諸説あるが、金子さんによると、明治時代は学校教育の一環として、ヨーロッパの教科書を翻訳した図画の教本を臨画することが行われていたという。そしてそれが、やがて遊びとして独立していくのである。明治後期には、はがきの絵に色をぬって送ると、賞金や賞品がもらえるということもあったらしい。最も流行ったのは、蔦谷氏が活躍した昭和20年~30年代。蔦谷氏が描いた「きいちのぬりえ」は、1セット5円~10円で飛ぶように売れたそうだ。

ぬりえ美術館

 館長の金子さんは蔦谷氏のめいにあたる。「ぬり絵を文化として残したい」とここを開いた。「開館当初は『ぬり絵』という言葉自体忘れられていて、珍しさや懐かしさで取り上げられることが多かった。それが昨年あたりから『ぬり絵は脳にいい』など、ぬり絵の効用に着目した大人向けのぬり絵が、新たに注目されるようになった」と話す。

集中できて、終わったあとは気分爽快に

 ふだんは「何をしていても、つい仕事のことばかり考えてしまう」という金子さんだが、ぬり絵をしている間だけは自然と集中でき、その後は頭がすっきりするそうだ。「私の場合、ウォーキングや水泳などの運動ではこうはいかない。体を動かしていても、頭では別のことを考えて、疲れてしまう。でもぬり絵は、下絵の線を意識しながらぬるせいか、不思議と他のことを考えずに没頭できる」
 そんな金子さんは3年ほど前から、美術館のサロン活動の一環として、月に一度、大人向けのぬり絵サロンを主宰している。「ぬり絵は子どものもの」と思われがちだが、自身の経験もあって、忙しい大人ほどぬり絵を楽しんでリフレッシュしてもらいたい、と考えたからだ。ぬり方のコツや色の使い方を教えてくれる講師はいるが、好きな色で自由にぬるのが基本。参加者からは「手を動かす作業が心地いい」、「人のぬり方や色使いを見ると刺激を受ける」といった声が多く聞かれる。中にはそれまでほとんどぬり絵に縁のなかった人が、「簡単に集中できて、気が晴れる」と、自宅で毎晩やるようになり、驚くほど上達した人もいるという。

毎月第3木曜日に開かれる「大人のぬりえサロン」

7月にはシンポジウムも開催

 ぬり絵は日本だけのものではない。世界中にぬり絵はある。例えばヨーロッパでは、ぬり絵は子連れで旅行するときの必需品で、長距離の移動で子どもが時間をもてあますと、ぬり絵を渡しておとなしく遊ばせる。駅や空港でも色えんぴつがセットになったぬり絵が売られている。美術館や博物館などで、展示内容にちなんだぬり絵が販売されていることも珍しくなく、ぬり絵は子どもの遊びとして日常に溶け込んでいる。また幼稚園や学校のプログラムにぬり絵を取り入れている国もある
 ただし金子さんの知る限り、大人がぬり絵をするという話は、日本以外では聞いたことがない。「“大人のぬり絵”は日本が最先端。これまで子どもの遊びと思われていたぬり絵が、日本では大人の楽しみとして、また脳を活性化させる手段として認められつつある。この流れを一過性のものにしないよう、ぬり絵をもっと文化として成熟させていきたい」
 7月15日には、東京で「国際ぬり絵シンポジウム」が開催される。ぬり絵の文化性や効用など、ぬり絵の持つ魅力を多方面から取り上げる。金子さんも、世界に先駆けて大人にも広がりつつある日本のぬり絵について、講演を行う予定だ。