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No.21 脳の健康に欠かせない脂質

No.21 脳の健康に欠かせない脂質

 エネルギー源としてだけでなく、脳の健康にも深く関わっている脂質。本ニュースでもアラキドン酸(ARA)※1やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの脂肪酸と、脳機能の関係について、これまでに何度か取り上げてきた。食品などからの摂取が不可欠な必須脂肪酸は、全部で5種類。しかし先日開催された日本栄養・食糧学会(2007年5月17日~20日)で、女子栄養大学の川端輝江氏(基礎栄養学研究室教授)らが発表した研究によると、必須脂肪酸の中には食べ方によって不足しやすい脂肪酸もあり、きちんと摂るには工夫が必要なようだ。

食品からの摂取が必要な5つの必須脂肪酸

 脂質は炭水化物、タンパク質とならぶ三大栄養素のひとつ。1gで9kcalのエネルギーになるほか、体を作るあらゆる細胞の細胞膜の成分などとしても利用されている。特に注目すべきは、脳の神経細胞に含まれる脂質で、この脂質が脳の機能そのものに深く関与していることが、数々の研究によって証明されつつある。
 厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」では、30代~60代までの成人の場合、総エネルギーの20%~25%にあたる量を、脂質で摂ることが推奨されている。しかし脂質にもさまざまな種類があり、「脂質であれば何を摂っても同じ」ではない。脂質の中でもリノール酸、α-リノレン酸、DHA、EPA(エイコサペンタエン酸)、そしてアラキドン酸の5種類の脂肪酸は、体内で作り出すことができないため、「必須脂肪酸」として食品から優先的に摂る必要がある(図1)。
 必須脂肪酸のうち、リノール酸とα-リノレン酸は植物性の食品に多く含まれる。DHAやEPA、アラキドン酸は、魚や肉、卵などの動物性食品に豊富だ。実はこれまで、アラキドン酸はリノール酸から、DHAとEPAはα-リノレン酸から、それぞれ十分な量が体内で合成されると考えられていた。しかし最近の研究で、実際にはほとんど作られていないことが判明し、これらの脂肪酸も必須脂肪酸に加えられるようになった。

5つの必須脂肪酸
アラキドン酸カプセル摂取前後の血液中のアラキドン酸量の変化

アラキドン酸の取り込みは、DHA、EPAの影響を受ける

 川端氏らは必須脂肪酸の一つであるアラキドン酸について、食品やサプリメントなどで摂取したとき、体内にどのように取り込まれるかを調べている。DHAやEPAは外から摂った場合でも、血液中の濃度が上昇することが知られていたが、日常の食生活におけるアラキドン酸の取り込みに関しては、これまで詳しく研究されていなかった。
 2004年から2005年にかけて、若年女性(平均年齢20歳)と中高年男性(平均年齢67歳)を対象に行った食事調査では、アラキドン酸の摂取量と体内(赤血球の膜の中など)への取り込み量に相関関係は見られなかった。つまりこれは、アラキドン酸を食事として外から摂っても体内のアラキドン酸量は増えない、ということなのだが、一方でDHA、EPAの摂取量との関係を見ると、DHA、EPAの摂取量が多い人ほど、アラキドン酸の取り込み量が少なくなっていた。
 この結果を受けて2006年5月に行った実験では、若年女性(平均年齢20歳)を対象に、DHA、EPAの主な供給源である魚介類の摂取量を一定にした上で、アラキドン酸の取り込み量を調べた。具体的には魚介類を食べる回数を週4回とし、1日80mgのアラキドン酸をカプセルで摂取してもらった。期間は3週間。なお、昼食に魚を食べる場合は、アラキドン酸カプセルは朝食か夕食時に摂るようにするなど、魚介類とアラキドン酸を同じタイミングで摂取しないことも条件に加えた。
 図2にこの実験の結果を示した。実験開始前と終了後で血液中に含まれるアラキドン酸の量を調べたところ、毎日アラキドン酸カプセルを摂取したグループでは、アラキドン酸を含まないカプセルを摂取したグループと比較して、血液中(血しょう中、および赤血球の膜中)のアラキドン酸量は有意に増加していた。これは前回とは異なる結果だ。
 これについて川端氏は「アラキドン酸、DHA、EPAの3つの脂肪酸は、細胞膜などの成分として取り込まれるとき、互いに競合すると言われている。また理由は分からないが、その場合DHAやEPAが、アラキドン酸に競り勝つ傾向が強い。最初の調査ではDHA、EPAとの競合作用が働いてしまったために、アラキドン酸をたくさん摂っていても、体内のアラキドン酸量は必ずしも増えなかったと考えられる。次に行った実験では、DHAやEPAの供給源となる魚介類の摂取量を一定にした上、アラキドン酸と同時に摂らないようにしたため、DHAやEPAとの競合が起こりにくかったのではないか」と推察する。

魚だけではアラキドン酸が不足しがちに

 ふだんの食事で5種類の必須脂肪酸を摂るには、どんなことに気をつけたらよいのだろうか。川端氏によると、まずは植物性の油に偏らず、動物性の脂肪を摂ることも大事だという。図1で示したように、植物性油と動物性脂肪では、多く含まれる必須脂肪酸が異なるので、どちらかに偏っていると不足する脂肪酸が出てしまう。特に、細胞膜の成分として、アラキドン酸、DHA、EPAの3つの脂肪酸はいずれも大切であり、これらは魚、肉、卵などの動物性食品からのみ摂取される。その上で川端氏は一連の研究結果から、動物性脂肪の摂り方について次のようにアドバイスする。「アラキドン酸の体内への取り込みは、DHA、EPAの影響を受けやすいことが明らかになった。DHA、EPAを豊富に含む魚を食べるだけでなく、アラキドン酸を含む肉や卵も食べることも大切である。1回の食事では魚あるいは卵、肉のどれか一つを主菜として、どれかに偏らず日替わりでバランス良く摂ってほしい」
 特に、脳をはじめ体内のアラキドン酸量は、加齢とともに減少するため、高齢者ほどアラキドン酸の補給を意識した食べ方が重要になる。年をとるとあっさりした魚を好む傾向が強くなるが、肉も敬遠せず食べるようにしたい。

※1 アラキドン酸(ARA)
細胞膜を構成する主要な不飽和脂肪酸。体の組織のいたるところに存在するが、特に記憶との関係が深い海馬を中心に脳に多く含まれ、そのため脳の機能そのものに大きく関わっていると言われている。食品では肉や卵、魚などに含まれ、食事からの摂取が必要な「必須脂肪酸」のひとつに数えられている。