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No.18 リラックス? それとも頭すっきり?

No.18 リラックス? それとも頭すっきり?

 仕事や家事のあいまにコーヒーでちょっとひと息。こんなとき、もしも好みの豆を選べる贅沢に恵まれたら、あなたはどの豆を選ぶだろう。杏林大学医学部精神神経科教授の古賀良彦氏によると、豆の種類によってコーヒーの香りが脳に与える影響は異なるらしい。リラックスしたいとき、頭の回転を良くしたいときなど、目的に応じて香りの効果でコーヒーを飲み分けることも可能だ。

リラックスしたいなら、グアテマラやブルーマウンテン

 コーヒーを飲むことでそれまでの緊張が解け、心身ともにリラックスできたという体験を持つ人は少なくない。しかし経験的に知っていても、果たしてコーヒーには本当に人をくつろがせる効果があるのだろうか。
 古賀氏は、脳波の一種であるアルファ波を指標として、コーヒーの香りのリラックス効果を調べている。アルファ波は、人がリラックス状態にあるとき後頭部から出現する脳波としてよく知られている。被験者は20代の女性10名。香りに関する偏りが生じやすいため、喫煙者は含まれていない。
 実験したコーヒー豆は、ブラジルサントス、グアテマラ、ブルーマウンテン、モカマタリ、マンデリン、ハワイコナで、このほか対照として無臭の蒸留水を用いている。豆は中挽きにし、それぞれ90℃の熱湯で抽出。抽出されたコーヒー液の香りを数十秒間嗅いでもらいながら、その間のアルファ波を測定した。
 図1はその結果である。6種の豆の中でアルファ波が多く出ていたのがグアテマラとブルーマウンテン。反対にマンデリンやハワイコナではアルファ波の出現量は少なかった。またマンデリンやハワイコナの香りを嗅いだときに出るアルファ波の量は、無臭の蒸留水と比べても少ない、という興味深い結果も観察できた。つまりコーヒーの香りであれば、多かれ少なかれリラックス効果があるというのではなく、豆によってリラックスできるものと、全くできないものがあるということだ。

コーヒーの種類によるアルファ波(10.5-11.0Hz)の比較
コーヒーの種類によるP300の潜時の比較

ブラジルサントス、マンデリンは脳の働きを活性化する

 一方、リラックスとは対照的に、難しい仕事の前に気合いを入れたり、頭をすっきりさせたいときにコーヒーを飲む場合もある。次に紹介するのは、同じく古賀氏が行ったコーヒーの香りが脳の情報処理機能に与える影響を調べた研究である。
 実験の詳細は前述のアルファ波の実験と同様だが、この場合はP300と呼ばれる脳波に着目している。P300は、ある刺激に対してそれを認知し識別したときに、頭頂部から出現する脳波である。実験では被験者にヘッドホンを装着してもらい、低い音に混じって高い音が聞こえたらなるべく早くボタンを押す、という課題を行ってもらった。このとき脳では「まれに聞こえてくる高音を、認知して選り分ける」という作業が行われているわけだが、この際、図2の右上に示したような波形でP300が出現する。
 この実験で特に注目しているのは、P300が出るまでの「潜時」である。これはヘッドホンを通して高い音が聞こえてから「高い音が聞こえた!」と脳が認知するまでの速さ、すなわち情報処理の速度を示している。一般に疲れて注意力が低下してくると「潜時」は長くなり、頭がすっきりしているときは「潜時」は短縮される。
 図2の棒グラフは、この実験の結果を示したものである。潜時が短くP300が早く出現しているのはブラジルサントスやマンデリンで、これらの豆の香りには脳の働きを活性化し情報処理のスピードを速める効果があることがわかった。反対に先の実験で、高いリラックス効果が認められたグアテマラやブルーマウンテンは、脳の活性化に関しては効果が確認できなかった。

身近にある香りの効果―日常生活でもっと活用を

 一連の実験を行った古賀氏は、その結果について「予想していたよりも、明らかな効果が出た」と評価する。香りの効果といえば「芳香療法」とも呼ばれるアロマテラピーが代表的だが、グアテマラやブルーマウンテンのリラックス効果や、ブラジルサントスやマンデリンに見られた脳の賦活効果は、アロマテラピーに引けを取らない顕著な効果だという。また補足として古賀氏は「香りの好き嫌いは、アルファ波やP300の出現にさほど大きな影響は与えない。つまり今回の実験結果は、好きな香りを嗅いだためではなく、豆の香りそのものに脳に働きかける力があることを裏づけるものだ」と話す。

コーヒーの種類による香りの効果

 鼻から入った嗅覚情報は、脳の中でも喜怒哀楽や快・不快を支配する「大脳辺縁系」にダイレクトに届く。このようなルートをとるのは五感の中では嗅覚だけで、それゆえに香りは感情との結びつきが深い。ともすると視覚や聴覚に頼りがちな現代社会、日常生活の中でやる気を出したり、ストレスに対処する方法として、身近にある香りの効果をもっと積極的に活用したいものだ。
 最後に、今回紹介したコーヒーの香りのリラックス効果と脳の賦活効果をひとつの表にまとめた(図3)。リラックスしたいのか、頭の回転を良くしたいのか、コーヒーを飲むときの参考にしてみてはどうだろう。