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No.16 冬場の脳梗塞は、急な血圧低下と脱水に注意

No.16 冬場の脳梗塞は、急な血圧低下と脱水に注意

 脳の血管の障害により、ある日突然、意識を失って倒れる脳卒中。死亡率こそ近年、低下傾向にあるが、高齢社会と生活習慣病の増加を背景に、その患者数は増え続けている。
 国民病ともいわれる脳卒中をどのように予防するか。また、どのように対処するか。今回のブレインヘルスニュースでは、脳卒中の中でも、その6、7割を占める脳梗塞を取り上げ、脳梗塞の前ぶれともいえる症状や、冬場に特に気をつけたいことなどについて、脳神経疾患研究所の渡邉一夫氏に解説してもらった。

死亡率は低下。しかし患者数は脳梗塞を中心に増えている

 日本人の死因の第3位に挙げられる脳卒中(脳血管疾患)。1980年まで長く死因のトップを占めていたが、その後、第1位を「がん(悪性新生物)」に明け渡してから、死亡率そのものは減少傾向にある。
 脳卒中は脳の血管の障害によって生じる神経症状の総称で、大きく分けると血管が詰まって起こる「脳梗塞」と、血管が破れて起こる「脳出血」や「くも膜下出血」などがある。近年、脳卒中全体で死亡率が低下してきているのは、高血圧の予防や治療法が進歩したことにより、脳梗塞に比べて死亡率の高い脳出血が減ったからである(図1)。

脳卒中(脳血管疾患)の死亡率

 しかし死亡率こそ下がったものの、脳卒中の患者数は増え続けているのが現状だ。人口の高齢化や食生活の変化に伴い、脳出血に代わって、血管が詰まって起こる脳梗塞が増加しているからである。今では脳卒中全体の6、7割を、この脳梗塞が占めている。
 脳梗塞の多くは、動脈硬化によって血管の内腔が狭くなることで起きる。血管が詰まって血流が途絶えると、その血流によって養われていた脳の組織が壊死し、機能が失われる。脳梗塞による死亡率は7%ほどだが、脳梗塞を起こした人の約7割に、何らかの後遺症が残ると言われている。

'前ぶれ発作'が起きたら、すぐに脳外科か神経内科へ

 脳梗塞は何の予兆もなく、ある日突然、発症すると思われがちだが、脳梗塞を起こした人の約3割には「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる“前ぶれ発作”が起きている。本格的な脳梗塞の発作を未然に防ぐためには、この“前ぶれ発作”を見逃さず、適切に対処することが求められる。
 TIAの症状は「手足がしびれる」「物が二重に見える」「ふらつく」「めまいや耳鳴りがする」「体の半身に力が入らず、箸などを落とす」「顔が歪む」「舌がもつれる」などで、これらの発作が24時間以内、多くは数分から30分程度で、自然に消えるのが特徴だ。
 TIAは頸動脈で生じた血栓が、主な原因と考えられている(図2)。頸動脈が動脈硬化になると、そこに血栓ができやすくなるが、その血栓が脳内に流れ込み、血管を詰まらせてしまうのだ。しかしこの血栓は比較的もろいので、短時間で溶けてなくなり、血流が再開すると症状も消える。またTIAのほかに、このような神経症状が24時間から3週間ほど続いて消失するケースもある(可逆性虚血性神経障害/RIND)。
 しかしTIAにせよ、RINDにせよ、症状が治まったからといって、そのまま放置してはいけない。「TIAやRINDになった人は、ほぼ100%、近い将来、本格的な脳梗塞の発作を起こします。該当する症状があったら、すぐに専門の病院で診てもらうことです」と渡邉氏は話す。
 渡邉氏は、TIAが疑われる場合には、MRI及びMRA検査が可能な脳外科、神経内科の受診を勧める。MRIは磁気を用いて、頭や体の中の様子を画像に映し出す検査法で、発症まもない脳梗塞の病変や、小さな梗塞なども見つけやすい。またMRA検査はMRIと同じ原理で、脳の血管の様子を立体的に画像化し、血栓の有無や、動脈硬化などで血管が詰まりやすくなっている部分などを確認できる。

一過性脳虚血発作(TIA)が起こるしくみ

脳梗塞の予防。冬場は血圧の低下と脱水に注意

 冬本番を迎えるこれからの季節、脳梗塞対策として、特にどんな点に注意したらよいのだろうか。渡邉氏によると、冬場は血圧の低下と脱水から、脳梗塞を起こす人が増えるという。
 脳梗塞の最大の危険因子は、動脈硬化を引き起こす高血圧だが、すでに動脈硬化の素地を持っている人の場合、急な血圧の低下により、脳梗塞を起こすケースも少なくない。一時的に低血圧になることで血流が悪くなり、動脈硬化で血管が狭くなった部分より先に、血液が流れなくなることがあるのだ。
 同様のことは、脱水によっても起こる。体が脱水状態にあると、血液が濃くなって流れが滞ったり、血栓も出来やすくなる。
 「冬の脳梗塞でよくあるのが、お酒を飲んだあと、熱いお風呂に入って、発作を起こすケースです。お酒は利尿作用があるので、飲んだ以上に体の水分は失われがちです。それにお酒を飲むと血管は拡張し、血圧は下がります。そのあと熱いお風呂に入ると、入った直後は血圧は上がりますが、その後、再び下がります。入浴時の発汗によって脱水もさらに進みますから、脱水と低血圧が重なって、脳梗塞を非常に起こしやすくなるのです。それから冬場に電気毛布を使っている方は、就寝時にはスイッチは切るようにしてください。電気毛布は想像以上に体の水分を奪うので、脱水を招きやすいのです」。
 このほか渡邉氏は、予防の観点から定期的な脳ドッグの受診を勧めている。年齢にもよるが、血管には修復作用があるので、生活習慣を改善することで、もとの健康な血管を取り戻すことも可能だ。「家族歴がある人は、30代で一度、脳ドッグを受けた方がいいでしょう。家族歴がない人は、40代になったら2年に1度くらい、50代以降は毎年、受診することをお勧めします。脳の検査と怖がらず、自分の脳の血管がどんな状態か把握しておくことは、結果的に脳梗塞をはじめ、脳卒中全般の予防にとても有効です」。