脳を理解するための基礎知識
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No.14 「粗食はヘルシー」は真実か?

No.14 「粗食はヘルシー」は真実か?

 “粗食”がブームである。健康によい食事といえば、玄米に豆や野菜中心のおかず、そして主菜は、肉より魚のイメージだ。しかしこのような“粗食”にも、落とし穴がある。浜松医科大学名誉教授の高田明和氏は、「肉は体によくないと、むやみに肉を避けるのは、かえって危険」と警鐘を鳴らす。肉はブレインヘルス(脳の健康)の点でも非常に重要な食品。うつ気分の改善にも効果があるようだ。

「肉を食べると元気が出る」は本当だった

 健康志向の高まりから、最近では敬遠されがちな肉料理。でも本音を言えば、「お肉大好き!焼き肉やステーキを食べると、元気が出て幸せな気分になる」という人は、案外、少なくないのではないか。実際、肉を食べたときに感じるこの幸福感は、気のせいではないらしい。肉類に多く含まれるある脂肪酸から、脳に至福感をもたらす成分が作られるのだ。
 “ある脂肪酸”とは、本ブレインヘルス・ニュースでもこれまでに取り上げてきた、アラキドン酸(ARA)である。アラキドン酸は脳を中心に、私たちの体の中で、主に細胞膜を構成している脂肪酸。体内で合成できないため、食べ物として摂らなければならない必須脂肪酸の一つに数えられている。食品では表1のように、肉や卵に含有量が多い。
 このアラキドン酸の一部が、脳内でエタノールアミンと結合し、「アナンダマイド」という物質に変化する。アナンダマイドとは、サンスクリット語で「至福」という意味だが、この物質が脳内で作られると、不安や恐れが軽減し、至福感、多幸感を感じることが、これまでの研究で明らかにされている。肉にはアラキドン酸が豊富に含まれているので、肉を食べると脳内でアナンダマイドが生成され、満ち足りた気分になるというわけだ。

アラキドン酸が多く含まれる食品

 脳にこのような機構が備わっていることについて、高田氏は「他の動物に比べて、人間は体のわりに脳が極端に大きい。それに脳は膨大なエネルギーを消費する臓器だ。効率よくエネルギーが摂れる肉を好むよう、進化の過程で獲得してきた仕組みではないか」と話す。
 その後の研究で、アナンダマイドは肝臓や免疫組織など、脳以外の場所でも何らかの働きをしていることがわかっている。特に肝臓では脂肪の代謝に関与しているとされ、肥満抑制への期待から注目が集まっている。

肉に豊富なトリプトファンは、うつ気分を改善する

 アラキドン酸以外にも、肉には脳によい働きをもたらす成分がある。アミノ酸のトリプトファンだ。トリプトファンもアラキドン酸同様、体内で作ることができないので、必須アミノ酸の一つになっている。
 このトリプトファンは、脳でセロトニンという物質に変化する。セロトニンは脳内においてさまざまな役割を持つが、代表的なものに、感情を安定させたり、気分を明るくする働きがある。そのためセロトニンが少なくなったり、うまく機能しなくなると、うつの症状に陥りやすくなる。
 またセロトニンは眠りとも深く関係している。夜になると脳の松果体では、セロトニンからメラトニンが作られるが、このメラトニンが眠気をもたらすからだ。うつ病の人に睡眠障害が伴いやすいのは、メラトニンのもとになるセロトニンの働きが低下しているからと考えられる。
 実際、原料となるトリプトファンの摂取が少ないと、セロトニンが枯渇し、うつ病指数が高くなることは、実験でも確かめられている。うつ病指数とは、被験者に「人に会いたくないですか」「過去の失敗が気になりますか」「気分が落ち込んでいますか」などの質問をし、答えを点数化したものだが、図1の実験結果を見ると、うつ病の人がトリプトファン欠乏食を食べると、うつ病指数が高くなっているのがわかる(図1では「1マイクロモル以下」のグラフ)。
 なおトリプトファンからセロトニンが作られるのは、酵素の作用によるものだが、その反応は、①光に当たる、②運動する、③明るい考え方をする、④ゆっくり呼吸をする、といった外部からの刺激で促進される。

トリプトファン濃度とうつ病指数
老化予防を目ざした食生活指針

1日100gを目安に。“元気で長生き”に肉は不可欠

 トリプトファンは肉、赤身の魚、牛乳、卵などに多く含まれるが、アラキドン酸の摂取も考慮すると、双方が効率よく摂れる肉類は、脳を健やかに保つために欠かせない食品であることがわかる。
 平成16年の国民健康・栄養調査によると、日本人は1日に75gほどの肉を食べているが、高田氏によれば、1日100g程度を目安に摂るのがよいらしい。
 「特に年をとると、肉や脂っこいものを敬遠しがち。でもこれは大きな誤り」と高田氏。東京都老人総合研究所は、1976年からの15年間、東京都小金井市の高齢者を対象に行った調査をもとに、「老化予防のための食生活指針」を掲げている(表2)。同指針では2~6の項目に見られるように、元気で長生きするためには、肉も魚と同程度にしっかり食べて、動物性タンパク質と脂肪を十分に摂ることが推奨されている。
 「競争の激しい現代社会では、ストレスに耐えつつ、脳が十分に働けるだけの栄養をきちんと摂るという意識が必要」と高田氏は言う。生活習慣病予防の観点からは、何かと旗色が悪い肉食だが、脳の健康を考え、賢くつきあいたい。