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No.13 めまいは現代病か

No.13 めまいは現代病か

 めまいを一般的に定義すると、「眼に見えるものがゆらゆらとして定まらない感覚」を指す。めまいは頭痛と同じように日常的にありふれた体の症状だが、放置しておいても自然に治ってしまうめまいと、脳幹や小脳の梗塞など重篤な病気が隠れているめまいがある。めまいに襲われると、どんな人でも焦燥感や不安を感じる。しかし、めまいの種類、その特徴を知ることでめまいにどのように対処すればいいかが判断できる。最近その患者数が増加していると言われるめまいについて、東京歯科大学市川総合病院耳鼻咽喉科部長・中島庸也氏に聞いた。

寂しさ、孤独感がめまいを引き起こす

 78歳の女性患者。めまいを訴えて夜中に救急車で運ばれてくる。3~4ヶ月の間に3回、中島氏が診察をした。まず、脳の異常があるかをMRIで確認。脳腫瘍、脳血管障害の所見はなし。次に平衡感覚、聴力、眼振(自分の意思とは関係なく起きる眼球の異常な動き)の異常もない。夜中に救急車で搬送されてくるため、一晩は病院に入院することになる。しかし、その患者は翌日にはケロッとして、食事もよく食べるし、病院内を元気に歩き回る。さすがに3回目の入院の際、中島氏はその患者に「普段の生活。そして、どのような時にめまいが起きるか」を聞いた。すると「夜、電気を消して一人で寝ると、めまいが襲ってくる」と答える。その患者は独居老人であった。普段は元気で一人で生活できるから、娘夫婦も同居していない。中島氏はその患者の娘に誰かが母親に付き添うか、同居することを勧めた。それ以来、その患者はめまいを訴えて来院することがなくなった。

耳の構造

 この例のように、孤独感、寂寥感が引き金となって起こる心因性のめまいもある。めまいの症状は夜間はっきりと現れるが、孤独感、寂寥感がなくなると、めまいは治ってしまうのである。
 また、めまいを起こしやすいタイプとしては、几帳面だったり、神経質な性格、仕事上重責を担っている人が多いという。仕事に追われストレスが蓄積し、切羽詰るとめまいが起きる。このような患者の場合は、血圧が上昇するなど、めまいでは見られない心因反応が強くなる。精神的に追い込まれる、あるいは自分自身を追い込んでしまうことで、めまいの症状が現れ、めまいが原因で失敗したらどうしようと思うことが時には憂鬱な感情や、時にはうつ病に発展することもある。中島氏はこのような心因性のめまいの患者には、めまいの一般的な治療ではなく、精神安定剤を与えることで緩解することが多いと語る。

めまいはなぜ起きるのか

 めまいは体のバランスがくずれることで起きる。人間の体のバランスを保っているのは次のような仕組みである。耳の器官である内耳には音を感知する蝸牛(かぎゅう)と、平衡感覚をつかさどる三半規管と耳石器からなる前庭(ぜんてい)と呼ばれる部分がある。前庭は体の位置情報や体がどの方向へ動いているか、またその速さを感知している。前庭で得られた情報は前庭神経を通って小脳に伝達される。小脳では前庭からの情報に視覚や筋肉・関節で感じた情報が加わり、これらの情報を統合して体のバランスを保つ制御が行われる(図1)。めまいが起きる原因は、この前庭や脳の中枢にある脳幹や小脳などの中枢神経、さらに自律神経に異常がある場合だ。
 めまいの分類は図2のように「回転性めまい」と「動揺性めまい、浮動性めまい」の2つに分けられる。前者は自分自身がグルグルと回ったり、周囲がグルグルと回る感じのめまいを指す。これに対して後者は、頭や体がフラフラする感じ(動揺性めまい)や体が宙に浮いたようなフワフワする感じ(浮動性めまい)を言う。後者はグルグルと回るような回転性めまいではないことから、まとめて非回転性めまいと呼ぶこともある。

めまいの分類

 さらに「回転性めまい」は、末梢性のめまいと中枢性のめまいに分類される。末梢性のめまいとは、内耳や前庭神経の異常が原因となって起きるめまいで、メニエール病、良性発作性頭位めまい、突発性難聴、前庭神経炎、聴神経腫瘍などの病気が原因。また中枢性のめまいは、前庭神経から中枢に位置する脳幹や小脳に異常があって起きるめまいで、脳血管障害や脳腫瘍などがその原因となる。一方の「動揺性めまい、浮動性めまい」は、頚椎の異常や全身的な病気、眼科、歯科、婦人科領域の病気などが原因となって起きるめまいであり、その原因が特定された場合、当該の診療科での治療が行われる。

めまいが起きても慌てない

 めまいを起こすとどんな人でも焦燥感や不安を覚える。しかし、めまいが起きても「意識がはっきりしている」「手足が動く」「皮膚などの感覚がある」場合には慌てる必要はない。裏返して言えば、「意識障害がある」「運動障害がある」「しびれが出ている」場合は要注意であり、すぐに病院で診察してもらうべきである。
 めまいを訴える患者は最近増加していると言われる。その原因を中島氏は次のように解説する。
 「現代人の運動量、つまり歩く、動くといった体を動かす度合いはこの半世紀の間にかなり減少しています。その結果、三半規管などの平衡機能を十分に使わずに機能が衰えたという説があります。
 また、ストレスが主因となって三半規管のむくみが生じたり、ポータブルの音源からヘッドホーンを通して大きな音で音楽を聴く習慣から、蝸牛が疲労して三半規管にも影響を与えているとも言われています。いずれにしても不規則な生活習慣や生活のリズムの乱れが関わっていると考えられます」。
 めまいを予防するには、食事、睡眠、運動、休養といった毎日の生活のリズムを整え、ストレスをため込まず上手に発散することが必要である。