脳を理解するための基礎知識
HOME > 注目の成分アラキドン酸、サプリについての研究報告 >

No.9 “憂うつ”や“落ちこみ”と、どのように付き合うか?

No.9 “憂うつ”や“落ちこみ”と、どのように付き合うか?

 誰にでも落ち込んだり、何もやる気が起きない時はある。特に歳を取ると、環境的な要因や脳の衰えが影響して、その傾向が強くなることが言われている。しかし最近、必須脂肪酸の一種であるアラキドン酸※1には、高齢者に多く見られるこのような抑うつ気分を、穏やかに改善する効果があることが確認されている。
 できることなら、誰しも毎日を気分よく過ごしたい。日常的なストレスからくる抑うつ症状に、サプリメントを用いたアプローチはどの程度期待できるのか。
 高齢者に対するアラキドン酸の効果を中心に、杏林大学医学部精神神経科教授・古賀良彦氏に聞いた。

健常高齢者の抑うつ症状がアラキドン酸で軽減

 実験では、60歳~70歳までの健康な高齢者20名(全員男性)に、1ヵ月にわたりアラキドン酸を1日240mg摂取してもらい、実験開始前と開始後に「Zung(ツゥング)によるうつ状態自己評価」を実施した。
 「Zungによるうつ状態自己評価」は20項目の質問を4段階で自己評価、点数化し、その合計スコアでその人のうつ状態がどの程度かを判断するというものだ。
 図1はその結果である。被験者20人のうち、7名が摂取前と比べてスコアが下がり、うつ症状が軽減されていることがわかる。スコアだけでなく、「元気が出てきた」「やる気がわいてきた」という実感を得た被験者も多く見られた。
 本ニュースのNo.1でも取り上げたが、アラキドン酸は脳の中でも、特に海馬に多く存在し、脳機能そのものに深く関わっている。脳内のアラキドン酸量は年齢とともに減少し、脳の働きも衰える傾向にあるが、食事やサプリメントなどで十分な量を補えば、加齢による脳機能の低下、特に脳の認知機能(情報処理機能)を改善できることが、これまでの実験で確かめられている。
 今回の結果について古賀氏は、「高齢者の脳に不足しがちなアラキドン酸が補給されたことで、脳が機能アップし、その結果として抑うつ症状も軽くなったのではないか」と話す。
 脳の中では無数の神経細胞が互いに情報伝達を行っているが、これらの働きが低下することが、うつ病の原因の一つと言われている。脳の機能が衰えがちな高齢者が、抑うつ症状の兆候を示しやすいのは、そのせいもあるのだ。あくまで推察の段階だが、実験ではアラキドン酸によって脳が活性化したことで、抑うつ症状と関連する部位にも、間接的に何らかの良い影響があったのではないかと考えられる。

Zung得点(抑うつ尺度)アラキドン酸摂取前後の変化量

「ストレスコーピング(ストレス対処)」としてのサプリメント

 生きている限り、ストレスの原因となる出来事はなくならない。だからこそ自分のストレス状態を把握し、ストレスをコントロールし、ストレスから脱却するための行動をとる「ストレスコーピング(ストレス対処)」を身につけておくことが大切だ。
 ストレスコーピングは、趣味や嗜好に合わせて、人それぞれの方法で行えばよい。またケース・バイ・ケースで使い分けできるように、たくさんのストレスコーピングを身につけておくのがいい。古賀氏は、その効果が実証されたものとして、アロマテラピーなどの香り、ぬり絵、そして先述したアラキドン酸をはじめとする食品成分(サプリメント)を挙げている。

“うつに効くサプリメント”とのつきあい方

 抑うつ気分を軽減すると言われるサプリメントには、アラキドン酸のほかにセントジョーンズワートやいちょう葉エキス、DHA(ドコサヘキサエン酸)などがある。この中で最も抑うつに対して効果が顕著なのがセントジョーンズワートで、アラキドン酸やDHAは比較的ソフトに働く。
 セントジョーンズワートは、ヨーロッパでは軽症のうつ病患者に対して、治療薬として処方されることもある。まれに光線過敏症(日光にあたると、皮膚に炎症や水疱ができる)が出る以外、副作用もほとんど報告されていない。日本では医師がこのようなサプリメントを用いるケースはほとんどないが、セントジョーンズワートはメーカーによって品質の差が大きいため、自分で試す場合は慎重に選ぶことが大切だ。
 最後にサプリメントの飲み方について、古賀氏に聞いた。「サプリメントは薬ではないので、効果は穏やか。まずは1ヵ月を目安に続けてみること。基本的には副作用の心配はないが、体調や精神面でふだんと違った変化がないかどうか、よく観察してほしい。」
 1ヵ月続けてみて、よさそうならしばらく続けてみる。ただしサプリメントで気分はよくなっても、原因となったストレスはなくならない。気持ちが前向きになったら、環境を変えたり、その他のストレスコーピングを積極的に活用して、ストレスに対応したい。

※1 アラキドン酸(ARA)
DHAと同じく、細胞膜を構成する主要な不飽和脂肪酸。体の組織のいたるところに存在するが、特に記憶との関係が深い海馬を中心に脳に多く含まれ、そのため脳の機能そのものに大きく関わっているといわれている。食品では肉、卵、魚などに豊富で、食事からの摂取が必要な「必須脂肪酸」のひとつに数えられている。