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No.6 3人に1人は長期化。うつ病は本当に“心の風邪”か?

No.6 3人に1人は長期化。うつ病は本当に“心の風邪”か?

 ストレス社会の現代において、うつ病はだれにでも起こりうる心の病気として、広く認知されるようになった。しかし一方で、うつ病に対する誤解や無理解も依然として多く、それが原因でうつ病を長期化させてしまうケースが目立っている。杏林大学医学部・精神神経科教授の古賀良彦氏は「うつ病の中でも特に“職場のうつ”は、復職後の環境づくりが大きな課題。うつ病は特別な病気ではないが、甘くみると恐い」と警鐘を鳴らしている。

ストレス社会が生む病 うつ病

 “心の風邪”とも呼ばれるうつ病。アメリカでは6人に1人が、一生に1度はこの病にかかるとされ、日本でもうつ病は近年、確実に増加している。
 うつ病は、主にストレスが原因で引き起こされる。ゴムボールが外からの力で変形するように、ストレスが加わると心はゆがむ。ストレスが一時的なものであればそのゆがみもすぐに解消されるが、長い期間ストレスにさらされつづけると心はダメージを受け、うつ病を発症しやすくなるのである。

循環性格・メランコリー親和型性格

 またうつ病は、ある一定の性格の人に起こりやすいといわれる。うつ病になりやすい性格には、イラストで示した2タイプが挙げられる。そのほか因果関係は不明だが、年齢は30歳か50歳前後、肥満傾向があり、冬(1月~4月)生まれの人にうつ病患者が多い。
 もちろんこれらの性格や特徴に当てはまるからといって、深刻に考える必要はない。
 うつ病になりやすい要因を持っている人でも、そのことを自覚しストレスとうまくつきあっている限りうつ病にはならない。

「うつかな?」と思ったら、精神科か心療内科へ

 体の病気と同様に、うつ病も早期発見、早期治療が回復への近道。しかし心の病であるだけに、「もっとがんばれる!」などと精神論で乗り越えようとしたり、あるいは自分の性格や環境に原因があると思いこんだりして、適切な時期に適切な治療を受ける機会を逸してしまうケースもある。表のような症状がそれまでになく続くようなら、ともかく医療機関を訪ねることだ。
 うつ病を疑ったとき、どの科を受診すべきか迷う人は多い。うつ病の治療を行っているのは、主に精神科と心療内科である。精神科はうつ病をはじめ、神経症や統合失調症などの心の病気が専門で、心療内科は心と体の両面から病気を治療していく科だ。心療内科は内科の一部だが、うつ病にも対応してくれる。また最近では、患者が受診しやすいように、「神経科」、「精神神経科」などと標榜している精神科もあるので、事前に診療内容を確認しておくといいだろう。
 うつ病の治療は通常3~6カ月間、薬物療法と精神療法が並行して行われる。うつ病は脳内の神経伝達物質、特にセロトニンとノルアドレナリンの作用が低下して起こるといわれるが、薬物療法ではこれらの神経伝達物質の働きを回復させる。また精神療法はいくつかの方法があるが、近年うつ病の治療では「認知療法」が多く採用されている。「認知療法」とは、ストレスを増幅させている自分の思考パターンや心のゆがみに気づき、より柔軟な前向きのものへと変化させていくもので、医師とのカウンセリングを通じて行われる。

3人に1人は長期化。“職場のうつ”は治りにくい

 “心の風邪”とはいえ、うつ病は症状が再燃、再発しやすく、治りにくい病気である。古賀氏によると、うつ病患者の3人に1人は、数年~10数年ものあいだ長引かせてしまうという。特に30歳代、50歳代の“職場のうつ”に長期化が目立つ。

うつ病の症状

 うつ病の長期化にはいくつかの原因が考えられる。一つは治療が十分に行われなかった場合だ。医療機関にかかるのが遅れたり、治療を開始しても、医師の許可なく薬の服用を中断したケースなどである。また症状が軽快した段階で、一日も早く仕事に復帰しようと焦り、再発を招くこともある。職場でうつになる人は元来きまじめで仕事熱心な人が多いが、そのような性格傾向のままもとの職場に戻ると、うつ病を発症したときと同じ状況が再現されぶり返してしまうのだ。

社会全体でのうつ病ケアが急務

 古賀氏はうつ病対策の重要課題として、うつ病から回復した人の復職プログラムの必要性を訴えている。先に述べたように職場復帰の際のつまづきが、うつ病を長期化させる要因になりうるからだ。
 最近では企業のメンタルヘルスの取り組みは、生産性の低下や労働力の損失を抑制する点からも関心が高まり、中小企業でもEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)と呼ばれるサポートサービスの導入が進んでいる。しかしうつ病は、本人の性格や年齢、職場や家庭環境などが複雑に絡みあい、発症時の症状や完治に至るまでの経過や期間も一人ひとり異なるため、実際には十分にケアしきれていないのが現状だ。古賀氏は「うつ病に特化した専門家を育成し、会社と個人の間に立って、きめ細やかに対応できる体制づくりが急務」と述べる。うつ病は現代社会がつくりだした病気でもある。悪いときだけクレーンでつり上げ、よくなったらもとに戻すというやり方では、うつ病患者は減らない。企業、そして社会全体でうつ病とどう向き合うかが問われている。

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