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特別号 日本ブレインヘルス協会主催フォーラム「美しい脳と心」を開催

特別号 日本ブレインヘルス協会主催フォーラム「美しい脳と心」を開催

日本ブレインヘルス協会主催フォーラム「美しい脳と心」を開催

 昨年11月26日、日本ブレインヘルス協会が主催する、フォーラム「美しい脳と心」が都市センターホテル(東京・千代田区)にて開催された。
 同協会理事長・古賀良彦氏(杏林大学医学部精神神経科教授)から、日本ブレインヘルス協会の活動内容が報告されたあと、同協会理事・米山公啓氏(作家・医師)を座長に、茨城大学教育学部教授の尾﨑久記氏、(社)日本アロマ環境協会理事の高橋克郎氏が基調講演を行った。
 また後半のパネルディスカッションでは、脳の形態や機能を画像でとらえる「ブレインイメージング」をテーマに、どうすれば健やかな脳、すなわち、“美しい脳”を育むことができるかについて、3名のパネリストがそれぞれの立場から意見を交換した。

基調講演1 「がまん」する力と多動性障害

尾﨑 久記(茨城大学教育学部教授/日本ブレインヘルス協会理事)
 「落ち着きがない」、「飽きっぽい」、「取りつかれたように動きまわる」。昨今の子どもたちの行動について、親や教師からこんな声がよく聞かれる。これらの問題行動は従来、本人の性格やしつけの問題とされてきたが、最近では脳の機能不全のひとつである「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」と考えられるようになってきた。
写真  ADHDは「年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、および/または衝動性、多動性を特徴とする行動の障害」と定義され、文部科学省の実態調査(2002年)では、小・中学生の2.5%に見られることがわかっている。
 ADHDの症状は、多くの場合、成長とともに治まってくる。しかしそのような振る舞いによって人から非難されたり、周囲との軋轢が生じるなどして、それが強い劣等感となるケースも少なくない。そのような2次的な問題に悪化させないためにも、適切な治療と、環境的、教育的サポートが必要不可欠だ。
 後者については、ようやく国も動きはじめている。従来の「特殊教育」を「特別支援教育」の名のもとで再構築し、ADHDをはじめ、より多様な障害に対応したサポート体制の実現に向けて、学校現場は今、大きく変わろうとしている。

基調講演2 匂い感覚から生きる感覚を取り戻す~共通感覚の重要性

高橋 克郎((社)日本アロマ環境協会理事/日本ブレインヘルス協会理事)
 五感はそれぞれ独立して働いているように見える。しかし人間には、それらの感覚を統合する「共通感覚」が存在する。例えば甘いものを食べたとき、私たちが感じているのは砂糖の甘さだけではない。気持ちがほっと緩んだり、落ち着いたりする感覚、また食べ過ぎたときには、自分がだらしないような感覚を覚えることもあるだろう。味覚が感じているのは単なる砂糖の甘さでも、その奥にある共通感覚が感知する「甘い」は、それらの感覚すべてを含んだ統合イメージとなっている。
共通感覚の存在  共通感覚は、人間存在を支える根本的な感覚である。共通感覚があるからこそ、生きる実感や幸福感を得ることができる。しかし昨今、私たちの共通感覚は危機にさらされている。とりわけ視覚、聴覚偏重の情報が蔓延する現代、多くの人の共通感覚は、麻痺するか、閉鎖しかけている。
 私たちはこの共通感覚を、なんとしても取り戻さなければならない。そのためには軽視されがちな嗅覚、味覚、皮膚感覚を見直すべきであろう。中でも嗅覚は衰えがちな共通感覚を、根底から刺激し支えていく力がある。私は視覚、聴覚に偏る現代社会のカウンターバランスとして、この匂い感覚をより重要なものとしてとらえる必要があると考えている。

コメント:

鳥居 鎮夫((社)日本アロマ環境協会名誉会長/日本ブレインヘルス協会理事)
 嗅覚と共通感覚は、ともに右脳と密接に関係している。高橋氏は哲学的なアプローチで論じたが、嗅覚を利用して共通感覚を取り戻す試みは、脳科学的にも大変興味深い。

パネルディスカッション 「ブレインイメージング~心の動きを画像で見る」

パネリスト:
長田  乾 氏(秋田県立脳血管研究センター神経内科部長/日本ブレインヘルス協会監事)
            
中川 雅文 氏(医療法人社団創進会みつわ台総合病院副院長/日本ヒアリングインターナショナル理事長/
                日本ブレインヘルス協会理事)
            
渡邊 一夫 氏((財)脳神経疾患研究所理事長/日本ブレインヘルス協会理事)
司   会: 阪田 英也 氏(日経BP社日経ビジネス編集企画委員/日本ブレインヘルス協会理事)

■ブレインイメージング(脳の画像化)とは?

長田氏:
代表的なブレインイメージングに、脳血流量の変化をとらえる方法がある。この手法を使うと、脳は機能によって働く場所が異なることや、同じような課題でも難易度によって脳の活性部位が変わることが見てとれる。さらに外部からの感覚刺激(視覚、聴覚)を遮断すると、側頭葉、後頭葉を中心に、脳はより活性度を増し、研ぎ澄まされることもわかっている。
中川氏:
ブレインイメージングには、脳波のリズム(1/fゆらぎ)を見ていく手法もある。例えば利き腕を使った動きではα波のリズムは乱れないが、反対の腕を使うとリズムは乱れる。また好きな匂いをかぐと、脳の広範囲でα波のリズムが確認されるが、嫌いな匂いだとα波が出る範囲は狭まる。
渡邊氏:
ブレインイメージングは臨床の現場においても、脳の病態と進行を客観的にとらえるのに威力を発揮する。例えばアルツハイマー病型の認知症では、脳の萎縮にともなって脳室が拡大する一方で、海馬や扁桃体が薄くなっていく。また老人性うつ病でも海馬と扁桃体の減少が確認でき、ここからアルツハイマー病型の認知症へと移行するケースも見られる。

■脳と心は同じか?

中川氏:
養老孟司氏の『唯脳論』がベストセラーになったのは、それまで多くの人が「脳と心は別」と思っていたから。しかし医者や科学者は元来「脳と心は同一」という一元論の立場に立っている。
長田氏:
最近では恐怖や快感を脳の画像でとらえたり、それに関与する脳内物質を特定することができる。「心とは何か」という問題は議論が尽きないところだが、脳の動きによってさまざまな感情が生まれることは、科学的に解明されてきている。
渡邊氏:
外科医として1万人以上の脳を見てきたが、心は見つけられない。しかし心は確かに脳に存在する。脳の総合的な働きが心だと考えている。

■“美しい脳”はトレーニングによって手に入れられるか?

中川氏:
12色の色鉛筆を渡された子供と、64色の色鉛筆を渡された子供とでは、将来、色に関する表現力が違ってくる。つまり共通感覚を育む多彩な環境が、結果的に子供の脳の発育を促す。バーチャルな現代社会では、教育の一貫として子供たちにそのような環境を整えてやる必要がある。
長田氏:
毎日同じことを繰り返していると、脳は決まった部分しか使われなくなる。脳を鍛えるには、初めてのこと、難しいことにチャレンジすることが大切。それによって眠っていた部分の脳が目を覚まし、活性化する。
渡邊氏:
脳は鍛えられる。手術で脳の左半球を摘出した子供でも、訓練すれば話ができるようになることもある。年をとったら認知症予防に外国語などの勉強を始めてみてはどうか。

 およそ4時間にわたる長丁場にも関わらず、内容の濃い充実したフォーラムとなった。参加者からの質問も相次ぎ、「脳と心の健康」に対する関心の高さが感じられた。
 閉会のあいさつでは、副理事長の平田幸一氏(獨協医科大学神経内科教授)が、「健やかで幸せな人生を送るために、脳と心の健康は欠かせない。これからもこのような会を続けていきたい」と述べ、フォーラムは盛会のうちに終了した。