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No.1 認知症(ぼけ)を食によって改善する

No.1 認知症(ぼけ)を食によって改善する

 顔は覚えているのに、名前が出てこない」、「ものをどこに置いたか思い出せない」。そんな経験はだれにもあるだろう。年をとればなおさら、記憶力の低下を実感する機会は増える。
加齢にともなう物忘れは、自然な老化現象で、医学上とくに問題はない。自分が、もしくは身近な人が、最近、忘れっぽくなったと感じたとき、多くの人が心配するのは、これがいわゆる“ぼけ”の始まりではないか、ということだろう。

近年、認知症が急速に増加

 “ぼけ”は医学上、「認知症」(2004年12月に「痴呆症」から改称)と呼ばれ、「脳の病気によって、記憶や思考、判断能力などが損なわれた状態」をいう。高齢化が進むにつれ認知症の患者は増加し、国の発表によれば現在約170万人、団塊の世代の多くが高齢者になる2015年には、250万人にのぼると推計されている(厚生労働省/「2015年の高齢者介護」)。
 認知症は、記憶の衰えから始まることが多いため、加齢にともなって自然に起こる物忘れと間違われやすいが、両者は明らかに異なる。認知症の場合は脳の病気が根本にあるので、病気が進行すれば症状も悪化する。最初は単なる物忘れでも、やがて忘れていること自体がわからなくなったり、判断力や思考も低下して、日常生活に支障をきたすようになるケースも多い。

 認知症の原因となる病気は200~300あるといわれるが、なかでも近年急速に増加しているのが、アルツハイマー病によって起こる認知症(アルツハイマー型認知症)だ。これまで日本では、脳血管障害による認知症が最も多いとされてきたが、1990年ごろから順位が逆転している。
 アルツハイマー病とは、異常なタンパク質によって脳の細胞が破壊され、脳が萎縮していく病気で、高齢になるほどなりやすい。たとえばアルツハイマー型認知症の有病率は、65歳から5歳ごとに倍増し、80歳以上で発症する認知症は、そのほとんどがアルツハイマー型といわれている。

「食」から認知症を予防~ アラキドン酸(ARA)が脳を7歳若返らせる

 こうした背景のもと、認知症の予防は社会全体の大きな関心事になっている。食品成分に着目した研究も進められており、これまでにビタミンE、コエンザイムQ10(CoQ10)などの抗酸化物質や、魚に豊富に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やα-リノレン酸といった不飽和脂肪酸などが、注目を集めてきた。
 また最近になって不飽和脂肪酸のひとつであるアラキドン酸(ARA)に、脳の機能低下を改善する働きがあることもわかってきた。ARAとは、細胞膜をつくる主要な脂肪酸で、身体の組織のいたるところに含まれるが、特に記憶に深く関与するとされる脳の中の海馬にも含まれ、それゆえ脳の働きそのものにも深く関わっているといわれている。ARAは体内でリノール酸から合成されるが、その量はさほど多くないといわれ、必須脂肪酸として卵、魚、肉などの食品から摂る必要がある。
 今年、6月30日、7月1日の両日、栃木県宇都宮市で開かれた日本睡眠学会第30回定期学術集会で、このARAに関する興味ある演題が発表されている。
 日本ブレインヘルス協会の理事長、杏林大学医学部精神神経科教授 古賀良彦氏らによる「食と睡眠の生理学~アラキドン酸の脳機能に与える影響」である。
 実験では60~70歳までの男性20名に、ARAを1ヵ月間摂取してもらい、摂取期間の前後で、脳の認知機能を調べる課題を実施した。その課題とは、低音のなかにときどき高音の混じった音を被験者に聞いてもらい、高い音を聞きとったときに数をカウントし、ボタンを押してもらう、というものである。
 被験者がその課題を実施するときの脳波をコンピュータで解析すると、図1に示したようなP300という特徴的な脳波波形が検出される。このときP300が現れるまでの時間(潜時)を情報処理のスピード、P300の大きさ(振幅)を、集中度と考えるとわかりやすい。一般にP300は、加齢とともに潜時が長く、振幅は小さくなることが知られている。

加齢とP300

 図2はその実験結果である。ARA摂取前と摂取後のP300を比較すると、情報処理のスピードを表す潜時は有意に短縮され、集中度を示す振幅も大きくなる傾向が確認された。潜時は老化にともない、1年に1~1.2ミリ長くなるといわれているので、今回の実験結果は、およそ7歳分の脳の若がえりに相当する。

ARAは脳を若返らせる

 実験に用いたARAの量は1日240mg。これは栄養バランスのとれた食事をとっていれば補給できる量だが、体内での合成能が低下し、小食になりがちな高齢者ではどうしても不足に陥りやすい。実際、脳のARA量は、加齢とともに減少することが確認されている。
 先述したように、ARAは脳の細胞膜をつくり、脳の働きそのものにも関与する脂肪酸。上記の実験では、不足しがちなARAを一定期間、摂取しつづけたことで、脳の細胞が強化され、機能的にも改善が認められたのではないかと推察される。
 認知症については依然として不明な点が多く、予防法もまだ確立されていない。しかし食生活などの生活習慣によって、ふだんから脳の健康を維持し、認知症をはじめとする脳の病気に対して、抵抗力をつけておくことは可能だと考えられている。
 なかでも脂肪酸は、脳の構造や機能にとって重要な役割を果たしている。昨今の健康ブームでとかく敬遠されがちな脂肪だが、正しい知識を持って、適切に摂取することが望まれる。